老いても病んでも回転ずし

体力の衰えは知的生活で補おう。老いても病んでも例え病床にあっても十分楽しい生活は送れます。

別のアルゴリズム

 囲碁趣味の方は大抵知っていますがWeb上に世界的規模の大きな碁会所が幾つかあります。私の愛用しているクラブは「東洋囲碁」という韓国系のサイトです。
ここには常に2万人位の囲碁フアンがまぶれ集って昼夜を通して烏鷺(黒白・碁の別称)を戦わせています。一局毎の勝敗が即自分の持ち点を上下させるので割に正確な実力順に並びます。私は好調な時は7段まで行ったことがありますが大体は5~6段を上下しています。
このサイトの最高段位は9段に止められているので、ある強者が連勝しだすと他の者はプロと言えど9段を維持できません。
此処で9段を張っている強者はハンドルネームを使っていても大体は名の知れたプロです。

 このサイト上に一昨年暮れから正月にかけて衝撃的な出来事がありました。
今まで見たことも聞いたことも無い「Master」と名乗る9段が登場しあれよあれよと見る間に10連勝20連勝と続けます。こうなるとこのサイトの者は自分の碁を打っているどころではありません。一斉に観戦に向かいました。
力自慢のプロも我こそ連勝をストップさせようと立ち向かいましたが阻止できません。結局「Master 」は30連勝して悠然と消えて行きました。
と見る間に、中国系の別の囲碁サイトに「Master」が登場したのです。ここでも連勝を続けます。

 「Master」が何者なのか?人気マンガ「ヒカルの碁」のSaiの再来かと色んな憶測が飛び交います。
プロも「Master」の棋譜を徹底的に研究し、我こそは連勝阻止にと立ち向かいましたが歯が立ちません。ここでも30連勝、結局総計60連勝を果たし、またもこのサイトからも立ち去って行きました。
そして1月5日「Google社」が、「Master」は自社が昨年開発したAI(人工知能)の囲碁ソフト「アルファ―GO」の改良版であると発表しました。
「アルファーGO」は昨年世界最強棋士の一人韓国のイセドル九段と五番勝負を戦い4勝1敗で勝利したのだが1敗したことを重視しソフトの改良のため姿を消していたようです。そして今年「Master」として再登場したのです。
その後も「Master」は不敗を続け、5月27日、中国の最高実力者柯潔9段との3番勝負で3連勝したのを最後に、Google社は当分人間との対局実験は終了すると発表しました。(ニクイね)

 AIが人智を超えてしまった。いま囲碁界は特にプロ棋士は呆然としています。
アルファ碁の打つ手は、昔から人間が右脳左脳を結集して磨き上げてきた囲碁のセオリーでは理解できない手が多いのです。
元来囲碁とは奇妙なゲームで中国式と日本式の別のアルゴリズムがあり、それぞれは全く違う目的で碁を打ち進めます。それは日本式では囲った地の大きさ(つまり打ってない空点の多さ)を争いますが、中国式は打った石の数を争うのです。
そして中国式と日本式の両者が碁を打つと、双方は全く別の事を目的としているのに、結局強い方が碁に勝利するのです。
このアルゴリズムの違いは右脳と左脳の戦いのような奇妙な様相を呈します。

 ここで人工知能アルファ碁の登場ですが、アルファの打つ手は人間の理解を超える手が多く、ひょっとしたら人間の想像できない全く別のアルゴリズムを身に着けているのではないかと思われてきます。
アルファは最先端のAI技術ディープランニングと言う自動学習システムを備えており囲碁の定石もルールでさえ教え込まれていないものがこうなったら勝利すると言う目的だけを頼りに自ら勝つためのアルゴリズムを開発しながら猛烈な数の自戦対局を繰り返し、自ら学習して能力を高めていくと言う手法です。だから開発者と言えどもアルファのアルゴリズムは解明されていないと言います。

 ここで「Google」社は囲碁界への敬意と感謝の意を込めてアルファGO同士の自戦対局棋譜50局をフアンサービスのため提供するとして公開しました。
なるほど今まで見たことも無い宇宙人同士が打ったような面白いことこの上ない碁が展開しています。
私も日夜この棋譜観戦に没頭している所です。

 しかし何ですね。人間、幸福に暮らしたいということが目的なら、「今やっていることとは別のアルゴリズムがあるんじゃないの?」と、結局言いたいことはここへ来ます。失礼しました。